2014/10/4 ブロードウェイ・ミュージカル ON THE TOWN

ブロードウェイ・ミュージカル「ON THE TOWN」10/4東京公演のマチネを観劇してきた。

トニセンの御三方の舞台共演が10年ぶりであることと、青山劇場が閉館前ということで超プレミアチケットと化していたこの公演のチケットを手に入れることができた経緯から書き始めるとする。譲ってくださった方への感謝もこめて。軽い気持ちで申し込んだせいか先行も一般も惨敗してしまい、一度は途方に暮れて諦めたものの、どうしても諦めきれず昼夜問わず24時間体勢でツイッター各所に張りついていたところ、ついに誰もリプライを飛ばしていない譲りツイートを見つけた。その運命のツイートを見つけたときは目を疑った。そして譲ってくださるというリプライをいただいたときは嬉しさのあまり膝から崩れ落ちた。そしてそれとほぼ同時刻に地方在住の友人も全く別のルートで全く同じ公演のチケットを入手したという朗報を聞き、神のいたずらかと一人言ちた。

当日、青山劇場の目の前にくるまでほんとうにトニセンをこの目で見れることに対する実感が沸かずにいた。入場してからとりあえず席の確認をと思い、館内に入るとその狭さとステージの近さに思わず大声で「近!!!」と叫んでしまった。ドーム生まれドーム育ちのわたしにとって即死に至る距離感だった。想像以上の狭さで心拍数が急上昇。この近さで生の三人を観れると思ったら呼吸困難になるかと。呼吸に集中していないと息をすることを忘れてしまうほどに混乱していた。ほんとうに近すぎた。神に近づこうと高く飛び、太陽の熱で焼かれ墜落したイカロスを想った。凡人が神に近づこうなどと浅はかな考えを抱くとこうなるのかと苦しみもがいた。 

一緒にきた友人と離れて一人着席したところ、いてもたってもいられず、ON THE TOWNを観たことのある(あるいは観る予定の)フォロワーさんがいるわけでもないのにツイッターを開いて心を落ち着かせた。遺書を書き込んだ。あとで見たら見知らぬ人にリツイートやらお気に入りやらされていた。恥ずかしいのでやめてください!

会場内が暗転し、ステージの深紅の幕のみが照らし出された中、1970年代を思わせる懐かしさ漂うイントロが流れ出すと、まだ目にしていないのにも関わらず坂本さんを想って涙が出そうになった。時期尚早。幕が開いて開演すると、港のシーン。港にいるおじさん同士の「いま何時だ?」「6時5分前!」「いま何時だ?」「6時3分前!」というやりとりが繰り広げられており、会話の流れから明らかに6時に彼らの乗った船がニューヨークに着港するだろうことを予想させた。6時になった瞬間、汽笛の音とともに何人もの水兵が飛び出てきたが、どうしても三人らしき人が見当たらない!とおろおろしていたら最後に出てきました。井ノ原さん、長野さん、坂本さんの御姿を見た瞬間、心臓が跳ねた。コンサートだったら間違いなくペンラを折っていたと思う(過去にコンサート中にペンライトを破壊した経験あり)。三人の声がわたしの鼓膜を震わせ、その姿がわたしの目玉を濡らした。なんだ神か、と静かに合掌しこの世に別れを告げようとした。三人揃って歌った「ニューヨーク、ニューヨーク」は圧巻。歌が上手いことは重々承知の上で臨んだつもりだったが甘かった。もうアイドルの域じゃなかった。

ここからは気になった部分を抜粋。個人的にすきなカップルはチップ(長野さん)とヒルディー(シルビア・グラブさん)でした。生真面目でちょっと抜けているチップが押せ押せなヒルディーに圧倒されつつも惹かれていくさまがなんともキュート。長野博がセクシーでキュートだった。タクシー運転手のヒルディーが、仕事中(クビになりかけていた)にも関わらず通りかかったチップを無理やり乗せて市内を案内するシーンがあるのだが、ヒルディーが急ブレーキを踏むたびに前へ横へ揺れる長野さんのかわいさが無限大だった。

ジー(井ノ原さん)とクレア(樹里咲穂さん)のカップルは逆にひょうきん者のオジーと学者肌なクレアという意外な組み合わせでした。美術館で出会うシーンは井ノ原さんが本領発揮していて、おもしろすぎて大笑いした。古代人類に似ているからという理由でクレアに気に入られ、褒め倒されてまんざらでもないオジーが井ノ原快彦のありのままの姿でした。そこで調子に乗ってしまうところも井ノ原快彦としか言いようがない。

やっとのことで憧れだったミスサブウェイのアイビィ(真飛聖さん)を見つけてデートに誘うも、自分なんかじゃ…と我に返ってしょんぼりしてしまうゲイビー(坂本さん)もただの坂本さんだった。それまではオジーとチップに励まされて煽てられ、「ゲイビーのお通りだ」なんて歌まで歌い、自分に自信を持っていたのにいざ彼女を目の前にすると自分のちっぽけさを実感して逃げ腰になっちゃう坂本さん…じゃなくてゲイビーがかわいすぎた。それでもその後無事デートの約束にこじつけることに成功。オジーやチップと合流すると浮かれ出しテディベアと踊り出すシーンがあり、テディベアを持って踊る坂本昌行さん(43)がこの世のものとは思えないほどかわいかった白目……なんだ?なんだ?わたしが今目にしているものはなんだ?とちっぽけな脳みそをフル回転させたが、かわいい以外の答えが出てこなかった。かわいい。

ところが諸々の事情でアイビィがこれなくなり、それをマダム・ディリー(以東弘美さん)伝いで聞き、すっかり意気消沈してしまうゲイビー。みんなにアイビィはどうしたんだと訊かれるも「本当は会ってもいなかったんだ」ととっさに嘘をついてしまう。つらい事情を陽気に隠してしまうゲイビーがリーダーとしての坂本さんとダブって心臓が捩じ切れるかと思った。切ない…(なお、そんなシリアスな話ではありません)。気分を晴らそうと気を利かせてくれた4人とさまざまなナイトクラブを訪れるのですが、そこでのショーの歌の内容がよりによって「デートの約束すっぽかされた」「しにたいしのう」との内容ばかりでゲイビー撃沈。ステージから目を背けて真顔で項垂れるゲイビー、オジーがくれたスカーフにくるまって縮こまってしまうゲイビー。どれも愛くるしくて思わず立ち上がって抱きしめに行くところだった、危ない。

そしてマダム・ディリーと再会し、アイビィの居場所を訊き出したゲイビーはナイトクラブを飛び出して地下鉄に乗り込む。電車に揺られているうちに眠ってしまい、ゲイビーの見ている夢を描くシーン。セクシーな衣装をまとったアイビィと上半身裸のゲイビーが怪しげな赤い光の中でダンス対決をする内容だった。最初に上裸で登場したときは後ろ姿だったので、ダンサーの誰かかと思ってぼんやり見ていたら、振り返ると坂本さんじゃないですか!43歳の体についているのが信じがたいほどの筋肉が。胸筋がうつくしすぎた。そして相変わらず脚がとてつもなく長い。体を思い切り反り踊る姿が曲線美そのものだった。元々細い体つきの坂本さんの体にどうやったらあんな筋肉がついたのか。岡田師範にトレーニング方法でも教えてもらったのか?このシーンばかりは思わず顔を被うような乙女ポーズで観てしまった。夢オチまでが長すぎて身が持たない。

そんなこんないろいろありつつも3組とも無事再会することができ、港で別れるシーン。各々抱き合いキスをして、大慌てで船に乗り込む三人。日は巡り朝の6時、別の水兵三人組がニューヨークの地へ降り立ち「ニューヨーク、ニューヨーク」を歌ったところで物語がおわりました。新たな物語を予感させるたのしいエンディング。別れを惜しむ悲しいバッドエンドはこのミュージカルにふさわしいおわり方ではないので、このおわり方でよかったと思う。

カーテンコールでは深々とおじぎをする三人が印象的だった。感謝の気持ちを体全体に込めた、尊い挨拶だった。他の役者さんが挨拶をして拍手を受けているときにもうしろでしっかり拍手している井ノ原さん、口でちゃんと「ありがとうございました」と言いながらおじぎする坂本さん、優しいまなざしで会場を包み込むような雰囲気を振りまいていた長野さん、三人とも人として尊敬する。幕が閉まったあとも出てきてくれて手を振ってくれてうれしかった。腕が引きちぎれんばかりに手を振っている自分がいた。最後に顔をひょこっと出してバイバイしていた長野博が爆裂かわいかった。

公演後、友人と合流したあとは劇場前でさくっと記念撮影を済ませてから、坂本さんの胸筋について語りながら渋谷方面に歩き出したのだが、友人がふと言葉を止めて劇場の方へ振り返って一言「パンフレット……」。胸筋に頭をやられていたせいか、集中して観劇していたせいで頭がぼうっとして体中の熱が引かないでいたせいか、パンフレットの存在をすっかり忘れていたのだ。まだいけるだろうと小走りで劇場へ戻ると、既に夜公演のために並ぶ人の列が。入り口付近のスタッフに、「昼公演入った者なのですが、まだパンフレットって買えますか…?」と恐る恐る訊いてみると、「代金を渡していただければわたしが買ってきます」という珍回答が返ってきて唖然。ここにきてスタッフをパシるという最低な事態に。ほんとうにすみませんでした。でもパンフレットの中身を見たら、諦めずに買ってよかったと思える内容だった。

総括すると、2014年のベスト現場大賞確定。恥ずかしながら今回初めてトニセンの現場にお邪魔したけど、入れてほんとうによかったと心の底から思った。アイドルという枠を超えた、プロの仕事だった。役者が本気だったからこそ、観る側も本気で観てしまい、第一部がおわった時点で集中の糸が切れて猛烈な頭痛に襲われるとう希有な体験もした。こんな近くで、役者としての三人を観てしまった以上、この先どんな目で三人を見たらいいのか分からない。毎朝あさイチを見ているのですが、もうイノッチなんて軽々しく呼べない。でもしばらくこの熱に浮かされていたい。今までは現実逃避のためにアイドルを見に行っていると思っていたのに、舞台でトニセンという現実の存在を目の当たりにしてしまい、何が現実なのか分からなくなった。