オフ・ブロードウェイ・ミュージカル MURDER for Two

V6坂本昌行さんと松尾貴史さんによるミュージカル "MURDER for Two" の6/4(土)マチネ公演を観劇してきた。初の世田谷パブリックシアター

www.murderfortwo.jp

お話の詳細は公式サイトを見てもらうとして、大いにネタバレありの超個人的レポを。

ステージの両端からお二人が登場して観客に向かって挨拶していると、ステージ中央で鉢合わせして「おい!」と言うかのような演出でいきなり本編に突入するはじまりかただった。現実とお芝居が境目なくとけ合っている感覚で、気づいたらお芝居に引き込まれていた。この不思議な感覚は終始あって、例えば松尾さん演じるマーカス・モスコウィッツの携帯電話が鳴るシーンでは、いきなり坂本さんが「だめだよ本番中に携帯鳴らしちゃ!電源切ってって言ったでしょう!」と言うものだから一瞬「え、ほんとうに誰かのが鳴っちゃったの?」とどきっとした。実際は観客のが鳴ったと勘違いした体で言ってただけだけど。ちなみにこの携帯電話のやりとりは二度三度あって、二度目のときに坂本さんが「次鳴ったらどうします?」と松尾さんに訊いたら「となりのサブウェイで全員分奢り…」と言っていて、生のお芝居ならではのアドリブがたのしい。他の公演はなんだったんだろう。

 

白シャツ、ベスト、黒のパンツ、黒の革靴、と正装に近い衣装だったせいか、いつもより坂本さんの足が長く見えた。最初から最後まで足長いなって絶え間なく思っていた。バレリーナのバレット・ルイス役のときは、バレエのポーズをきめるせいで余計長く見える。あと体が尋常じゃなく柔らかい。

 

坂本さんは、殺人事件の被害者となったアーサー・ホイットニーの妻、ダーリア・ホイットニーか、その姪であるステフ・ホイットニーを演じている時間がいちばん長かったと思うけど、どちらも女性で、かつ老婦人と大学院生というとてつもない年齢幅を自在に演じ分けていてほんとうに感心した。特にステフ役をやっているときのいきいきした演技を見ていると、この44歳のおじさんアイドルのなかには20歳そこそこのお嬢さんがキャピキャピ駆け回っているのかと思った。

 

全編弾き語りと謳っているだけあって、二人の演じ分け以外ではピアノの連弾シーンが見どころだった。低音を坂本さん、高音を松尾さんという並びから始まり、押し出し方式で松尾さんが低音にまわり、坂本さんが高音に移動し…という繰り返しは、目と耳の両方でたのしむことができた。お二人ともほんとうに器用だなと。松尾さんのピアノ歴は存じないけど、つい最近ピアノを始めたという坂本さんのすさまじさよ。ピアノ素人からしたらちょっとしたミスなんて全然気にならないし、万が一わたしがピアノに精通していたとしてもそれもひとつの愛嬌としてたのしめたと思う。

 

マーカスがバレリーナのバレットを取り調べるシーンでは、バレットを引っ張ってきて椅子に座らせるんだけど、

松尾「それじゃ、ミス・ルイス…」と話しかけると、

坂本「まだあたし♡(ステフ)」と、

振り向くとまだ直前に演じていたステフというやりとりが非常にユーモアにあふれていて抱腹絶倒だった。ひとりで複数人の演じ分けがあるお芝居ならではの演出。これもメタ表現のひとつで「マーカスがバレットを取り調べをする」というお芝居と「坂本昌行が演じ分けをしている」という現実の意識が併用されている。

 

あと、このミュージカルのなかでいちばん笑ったのは、なんと言っても関ジャニ∞のくだり。容疑者で、のちに第二の犠牲者となる精神科医のドクター・グリフが、事件にまつわる重要なひみつをマーカスに伝えようとするシーン(以下、表現曖昧)。

坂本「あるひとりの患者に…えいっとね」

松尾「え?関ジャニ?」

坂本「いやだからひとりの患者に…えいっと…」

松尾「…関ジャニ∞?」

坂本「あるひとりの患者に!えいっと…」

松尾「だからひとりなのか8人なのかはっきりしてくださいよ!え?ひとり抜ける?」

まさかのエイトネタで、おなかがよじれるくらい笑った。家でバラエティ番組を見ているレベルで素で笑った。松尾さんの切り返しがすばらしい!

 

ダーリア・ホイットニーが取り調べの最中に過去を回想して夫との馴れ初めを語るシーンでは、「あの人(亡くなった夫)はわたしのこの眉と鼻の穴を…」という台詞があって、鼻の穴といえばご存知坂本昌行でありますから、会場中が笑いの渦に。 

 

終盤のダーリアがひとりワンマンショーを開催するシーンが、最高のエンターテインメントで、いちばんすきなシーンだったかもしれない。なんたってこの人はミラーボールやビッグバンドの音楽、色とりどりの銀テープと紙ふぶき、スポットライトがこんなに似合うんだろう。演じているのは老婦人なのに華やかで眩しかった。そしてこのショーを必死に止めようと家中の電源やコードを切りまくるマーカスも滑稽だけれどショーに面白みを加えていてよかった。

 

最後の連弾からの銃を撃つエンディングには心底痺れた。お二人の呼吸と音ハメが完璧で、この壮大なミステリーコメディを締めるにふさわしい演出だった。おもわず拍手を贈りたくなるような、そんなおわり。